在宅勤務制度を導入する場合の従業員に対する通勤費の扱いや支給制度
近年、在宅勤務制度を導入する企業が増えつつあります。在宅勤務制度を導入する際は、あわせて従業員に対する通勤費の支給制度も整えたいところです。しかし、なかには「在宅勤務が始まり、出社日数が減った場合でも通勤費を支給するべきなのかな」「通勤費の支給制度の整え方がわからない」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。
本記事では、在宅勤務制度を導入する場合の、通勤費の支給義務について、支給制度を変更する際のポイントとともに解説します。
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在宅勤務の従業員に通勤費の支給は必要?
在宅勤務の従業員に対する通勤費の支給は、就業規則に則って判断することとなります。
通勤費の支給は、法令で義務化されているわけではないからです。そのため、支給の有無や支給額は企業ごとに異なります。つまり、就業規則に通勤費の支給を明記していないのであれば、支払う必要がないということです。
ただ、通勤費の支給は、福利厚生の一環として導入している企業がほとんどです。出社日数が減った社員には、定期代の支給をやめて出社日数分の実費を支給するという方法が考えられます。
在宅勤務制度の導入で通勤費の支給制度を変更する場合のポイント
在宅勤務制度を導入すると、当然、従業員の出社日数が減ります。出社日数が少ない場合、定期代の支給ではなく、出社日数分の実費を支給するかたちに変更すれば、企業のコスト削減にもつながります。しかし、在宅勤務制度を導入したからといって、企業側が従業員の許可を得ずに通勤費の支給制度を変更してはなりません。企業が無断で支給額を減額させた場合、法令違反になるリスクがあります。
ここでは、在宅勤務制度の導入に際して、通勤費の支給制度を変更する場合の4つのポイントを紹介します。
①現状の定期代の支給額と在宅勤務率を確認する
定期代の支給から、出社日数に応じた実費支給への変更を検討する際は、いくつか確認しておくべきことがあります。社内の在宅勤務制度の利用者や、現時点で支払っている定期代、予想される出社日数、1日あたりの通勤費などが、それにあたります。
「想定よりもコストを削減できなかった」という事態に陥らないためにも、まずは現時点での通勤費の支払い状況を把握したいところです。そのうえで、削減できる通勤費がどのくらいなのかを計算してみてください。
②就業規則を確認する
通勤費は、原則就業規則に基づいて支給します。そのため、支給に関する内容を変更したいときは、必ず自社の就業規則を確認しなければなりません。在宅勤務時の通勤費の廃止や変更などの手続きも、自社の就業規則の内容によって異なります。
なお、就業規則そのものを見直す場合は、従業員から意見を集めたうえで、労働基準監督署に届け出る義務があります。
③通勤定期券の割引率を考慮する
通勤費を出社日数に応じた実費で支給する場合は、通勤定期券を購入した際にかかる費用と比較することを、忘れてはなりません。通勤定期券には割引制度が認められているため、利用回数によっては、実費の支給額よりも安くなるケースがあるためです。
実費支給に切り替えたことで、かえって事業者が支給する通勤費のコストが増えるという事態は、極力避けたいところです。そのため、従業員の出社日数に応じて、実費で支給するか、通勤定期代を支給するかを判断するのがおすすめです。
④定期券の払い戻しができるかを確認する
定期代の支給を停止する際は、定期券の払い戻しができるかどうかも確認しておく必要があります。
定期券の払い戻しが可能な期間や、金額は鉄道会社によってさまざまです。通勤費の支給制度を変更したタイミングによっては、払い戻しできない可能性もあります。この場合、定期券を購入したばかりの従業員は、金銭的に負担が大きくなると考えられます。
そのため、従業員が利用している鉄道会社の払い戻しの対応を確認し、適切なタイミングで通勤費の支給制度を変更するのが望ましいです。
通勤費の課税・非課税ルール
在宅勤務制度の導入に伴って、会社から離れた場所に引っ越す従業員や、通勤手段を電車から自家用車に切り替える従業員がいるかもしれません。その際には、通勤手段によって、“非課税限度額”が異なることに注意する必要があります。
ここでは、通勤費の支給にあたって、確認すべき非課税限度額を、通勤手段ごとに解説します。
①公共交通機関で通勤するケース
公共交通機関で通勤する場合、1ヶ月あたりの通勤費の非課税限度額は、15万円と決められています。これを超過した分は、課税対象となります。
②自家用車で通勤するケース
自家用車で通勤する場合、1ヶ月あたりの通勤費の非課税限度額は距離によって異なります。距離ごとの具体的な非課税限度額は、以下の表をご参照ください。
▼自家用車で通勤する場合の非課税限度額
片道の通勤距離 |
非課税限度額 |
2㎞未満 |
(全額課税) |
2㎞~10㎞未満 |
4,200円 |
10㎞~15㎞未満 |
7,100円 |
15㎞~25㎞未満 |
12,900円 |
25㎞~35㎞未満 |
18,700円 |
35㎞~45㎞未満 |
24,400円 |
45㎞~55㎞未満 |
28,000円 |
55㎞以上 |
31,600円 |
国税庁『No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当』を基に作成
非課税限度額を超えた金額は、通勤費を支給したその月の給与に上乗せしたうえで、源泉徴収が行われます。
場合によっては、公共交通機関に加えて、自家用車を使って通勤する従業員もいるかもしれません。その際には、“公共交通機関を1ヶ月利用した際にかかる金額”と“片道の通勤距離で定められている非課税限度額”を合算した金額が、非課税限度額となります。なお、この場合も上限は15万円であり、超過分については課税対象です。
通勤費の代わりに在宅勤務手当を支給することもできる?
在宅勤務制度を導入したら、通勤費ではなく“在宅勤務手当”を支給するという選択肢もあります。近年では、こうした企業も、だんだん増えてきています。しかし、初めて在宅勤務制度を導入する場合は「在宅勤務手当とはどういうものなのかな」「通勤手当との違いはあるのかな」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
以下では、通勤費の代わりに支給できる在宅勤務手当の概要と、通勤手当との違いを解説します。
①在宅勤務手当とは
在宅勤務手当とは、その名の通り、在宅で勤務している従業員に対して支給する手当のことを指します。手当の対象としては、デスクや椅子の購入費用、インターネットの通信費用、光熱費の補助などが挙げられます。
在宅勤務では、作業用のデスクや椅子、通信回線などの環境が不可欠です。これらを揃える際にかかる費用は、従業員自身の負担となります。また、家にいるぶん、出社する場合と比べて、光熱費が増加するともいえます。このように、在宅勤務を開始する際には、従業員が負担する費用が増えがちです。在宅勤務手当は、こうした出費を賄うために支給するというわけです。
これまで出社が基本だったことを受け、従業員のなかには、在宅勤務に適した労働環境が整っていない方がいることも珍しくありません。ですから、在宅勤務手当の支給によって、きちんと仕事ができる環境を整えられれば、業務に集中でき、パフォーマンスの向上にもつながると考えられます。
なお、支給条件や方法は、企業が自由に決めることができるため、自社で統一したルールを定める必要があります。
②通勤手当との違い
在宅勤務手当と通勤手当の違いは、所得税の取り扱いです。先述したように、通勤手当には非課税限度額があります。非課税限度額を超えた分に関しては課税対象となりますが、超過しなければ非課税対象です。
一方で、在宅勤務手当の場合は、支給する方法によって、非課税対象か課税対象かが異なります。つまり、実費で支給する場合と、そうでない場合で所得税の取り扱いが変わるということです。
非課税対象となるのは、在宅勤務中にかかった費用を従業員が負担し、その実費相当額を企業が支給する場合です。業務で使用した通話料金や、インターネットの基本使用料などがこれにあたります。
反対に在宅勤務手当として、毎月一定の金額を支払う場合は、全額課税対象となります。実際に、在宅勤務中に使用しなくても、残金を企業に返還する必要がない費用は、給与としてみなされるため、課税対象となるわけです。
こうした基準は、国税庁が2021年1月に発表した『在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)』に、細かく記載されています。在宅勤務手当の支給を考えている場合は、一度目を通しておくと安心です。
また、事業者が独断で在宅勤務手当の導入を決めるのは、避けるのが望ましいです。支給方法によっては、従業員が不満に思うこともあるかもしれません。ですから、あらかじめ従業員とも話し合い、企業が負担する割合や限度額、支給方法などを決めておくのがおすすめです。
まとめ
この記事では、在宅勤務制度を導入する場合の通勤費について、以下を解説しました。
- 在宅勤務の従業員に通勤費の支給は必要?
- 在宅勤務制度の導入で通勤費の支給制度を変更する場合のポイント
- 通勤費の課税・非課税ルール
- 通勤費の代わりに在宅勤務手当を支給することもできる?
通勤費の支給は義務化されているわけではないため、その額や制度の内容は企業側の判断に委ねられています。在宅勤務制度の導入にあたって、通勤費の支給制度を変更する場合は、従業員への意見聴取をはじめとした手順を踏む必要があります。
また、従業員の通勤手段によって、非課税限度額が異なります。非課税限度額は法改正により変更されることがあるため、最新情報の確認が肝要です。
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