通勤手当と旅費交通費の違いは? 社会保険料との関係も解説

会社が従業員に支払う交通費は、大きく「通勤手当」と「旅費交通費」の2つに分かれます。どちらも移動にかかった費用を会社が負担する点は同じですが、社会保険料・雇用保険料・所得税の計算での扱いが異なります。
本記事では、通勤手当と旅費交通費の概要や、それぞれの違いを解説します。
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通勤手当と旅費交通費とは
企業が支払う交通費と聞いて思い浮かぶのは、通勤手当と旅費交通費ではないでしょうか。
両者は、移動の目的によって区別されます。基本的には、自宅と勤務地を往復するためにかかる費用が通勤手当、業務で移動する際に不定期で発生する費用が旅費交通費です。ここからは、それぞれの特徴を詳しく解説します。
①通勤手当
通勤手当は通勤費や通勤交通費ともよばれ、従業員が自宅から勤務地へ通うためにかかる費用を補助する手当です。電車やバスの運賃・定期券代のほか、マイカー通勤のガソリン代相当額なども含まれます。
通勤手当の支給は法律上の義務ではなく、福利厚生の一環として各社が任意に定めるものです。そのため、支給方法は会社ごとに就業規則や賃金規程で決められています。ただし、一度規程に定めた以上は労働条件の一部となるため、規程どおりに支給する必要があります。
なお、パートタイム・有期雇用労働法の「同一労働同一賃金」の観点から、雇用形態だけを理由に通勤手当に差を設けることは不合理と判断される可能性が高い点にも注意が必要です。
関連記事:通勤手当は就業規則にどう書けばいい?記載例とポイントを解説
関連記事:【2026年10月改正】同一労働同一賃金ガイドラインにおける通勤手当の実務対応と見直しポイント
②旅費交通費
旅費交通費は営業活動や出張など、業務のための移動にかかる費用です。取引先への訪問や他拠点への移動、出張時の新幹線・航空券代などが該当し、会計上は「旅費交通費」勘定で処理されます。
なお、特急料金の支給やグリーン車・ビジネスクラスの利用可否、日当の有無などは、会社ごとに旅費規程で自由に定めることができます。
通勤手当と旅費交通費の違い
通勤手当と旅費交通費には、企業の支給義務の有無以外にも次のような違いが見られます。
▼通勤手当と旅費交通費の違い
比較項目 | 通勤手当 | 旅費交通費 |
目的 | 自宅と勤務地の往復 | 業務遂行のための移動 |
支給義務 | なし(規程に定めれば支給) | 業務上の費用として会社負担が原則 |
支給方法 | 給与、または定期券の現物支給 | 領収書や移動記録に基づく経費精算 |
金額 | 経路が固定されるため毎月ほぼ一定 | 移動の都度変動 |
処理 | 通勤手当 | 旅費交通費 |
社会保険料 | 報酬に含まれる | 含まれない |
雇用保険料・労災保険料 | 賃金に含まれる | 含まれない |
所得税 | 非課税限度額まで非課税、超過分は課税 | 通常必要な範囲なら非課税 |
このように、通勤手当と旅費交通費は移動にかかった費用を企業が負担するという点が共通していますが、通勤手当は決まった通勤経路に基づく金額が給与として支給されます。
一方で、旅費交通費は移動の都度異なる経路が利用されるため、毎回同じ金額になるわけではありません。
通勤手当と社会保険料の関係
健康保険料と厚生年金保険料などの社会保険料は、従業員ごとの「標準報酬月額」に保険料率を掛けて計算します。標準報酬月額の元になる「報酬」には、基本給だけでなく通勤手当を含む各種手当が含まれます。所得税で非課税となる範囲の通勤手当も、社会保険では全額が報酬です。
一方、旅費交通費は労働の対価ではなく、従業員が立て替えた費用の実費弁償であるため、報酬には含まれません。
通勤手当の変動が標準報酬月額に影響する
通勤手当は、社会保険上の「報酬」に含まれるため、支給額が変わると標準報酬月額に影響することがあります。
定時決定(算定基礎届)では、毎年4月・5月・6月に支給された報酬の平均額をもとに、その年の9月分から翌年8月分までの標準報酬月額を決定します。通勤手当も報酬に含まれるため、4月から6月に支給された通勤手当の金額によっては、標準報酬月額の等級に影響する場合があります。
また、引越しや通勤経路の変更などによって通勤手当が増減し、固定的賃金が変動した場合、一定の要件を満たすと随時改定(月額変更届)が行われ、標準報酬月額が改定されます。
具体的には、固定的賃金(通勤手当)の変動後、継続した3カ月間に支払われた報酬の平均額をもとにした標準報酬月額が、現在の標準報酬月額と原則として2等級以上変動し、かつ各月の支払基礎日数などの要件を満たす場合が対象です。なお、2等級以上変動が必要となるため、通勤手当が変わっただけで必ず随時改定の対象となるわけではありません。
関連記事:通勤手当は定時決定(算定基礎届)でどのように計算する?計算方法と注意点を解説
関連記事:通勤手当の変更で社会保険料が変わる?随時改定(月額変更届)の判断基準と注意点を解説
通勤手当が扶養の判定にも影響する
社会保険の被扶養者の認定(年収130万円未満など)では、通勤手当も収入に含めて判定します。基本給だけで判断はされないため、注意しましょう。
なお、現在では労働条件通知書や雇用契約書など、労働契約内容がわかる書類に記載されている賃金から見込まれる年間収入が原則130万円未満であることが条件です。
通勤手当と雇用保険料の関係
雇用保険料では、通勤手当を労働基準法上の「賃金(労働の対償)」の一部として扱われます。そのため、毎月の通勤手当を含めた賃金総額に雇用保険料率を掛けて雇用保険料を計算します。
一方で、旅費交通費は労働の対価としての賃金ではなく実費弁償であるため、雇用保険料の計算の基となる賃金には含まれません。
労災保険料・年度更新にも影響する
全額会社負担の労災保険料も雇用保険と同様に、賃金総額に通勤手当を含めて計算します。
また、毎年6〜7月に手続きする労働保険の年度更新も通勤手当を含めて算出します。通勤手当の計上漏れや、旅費交通費を誤って賃金に含めていないかを確認しましょう。
失業保険の金額にも関係する
雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)の日額は、離職前6ヶ月の賃金から計算されます。この賃金にも通勤手当が含まれています。
退職した従業員の生活を保障する給付にも通勤手当の金額が関わっていることを意識しましょう。
所得税との関係
通勤手当は、一定額まで所得税が非課税になる限度額が定められています。限度額を超えた部分は給与として課税され、その月の源泉所得税の対象になります。
一方、旅費交通費は業務上の移動にかかった実費弁償であり、通常必要と認められる範囲であれば金額にかかわらず非課税です。通勤手当の非課税限度は以下のとおりです。
▼通勤手当の非課税限度額
区分 | 非課税限度額 | |
①交通機関または有料道路を利用している人に支給する通勤手当 | 1ヶ月あたりの合理的な運賃等の額(最高限度150,000円) | |
②自動車や自転車などの交通用具を使用している人に支給する通勤手当 | 通勤距離が片道2km未満の場合 | 全額課税 |
通勤距離が片道2km以上10km未満の場合 | 4,200円 | |
通勤距離が片道10km以上15km未満の場合 | 7,300円 | |
通勤距離が片道15km以上25km未満の場合 | 13,500円 | |
通勤距離が片道25km以上35km未満の場合 | 19,700円 | |
通勤距離が片道35km以上45km未満の場合 | 25,900円 | |
通勤距離が片道45km以上55km未満の場合 | 32,300円 | |
通勤距離が片道55km以上65km未満の場合 | 38,700円 | |
通勤距離が片道65km以上75km未満の場合 | 45,700円 | |
通勤距離が片道75km以上85km未満の場合 | 52,700円 | |
通勤距離が片道85km以上95km未満の場合 | 59,600円 | |
通勤距離が片道95km以上の場合 | 66,400円 | |
③交通機関を利用している人に支給する通勤用定期乗車券 | 1ヶ月あたりの合理的な運賃等の額(最高限度150,000円) | |
④交通機関または有料道路を利用するほか、交通用具も使用している人に支給する通勤手当や通勤用定期乗車券 | 1ヶ月あたりの合理的な運賃等の額と②の金額との合計額(最高限度150,000円) | |
※一定の要件を満たす駐車場等を利用し、その料金を負担している場合は上記の金額と1ヶ月当たりの駐車場等の料金相当額(上限5,000円)との合計が非課税限度額となります。(通勤距離が片道2キロメートル未満である人を除く)
参照:国税庁『No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当』
参照:国税庁『No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当』
判断に迷いやすい旅費交通費の具体例
実務では、通勤手当として処理するか、旅費交通費として処理するか迷う方もいるでしょう。
両者は「移動の目的」と「労働契約上の勤務地(労務の提供地)」の2点から判断するのが基本です。主な目安は以下のとおりです。
ケース | 区分の目安 |
勤務地が自宅の従業員が業務命令で出社 | 旅費交通費 |
勤務地がオフィスの従業員が在宅勤務の合間に出社 | 通勤手当 |
直行直帰(自宅〜取引先) | 旅費交通費 |
短期の客先派遣 | 旅費交通費 |
長期・常態的な客先常駐 | 通勤手当 |
勤務時間中の拠点間移動 | 旅費交通費 |
曜日ごとに決まった複数拠点への出勤 | 通勤手当 |
業務命令による研修・会社指定の健康診断 | 旅費交通費 |
※最終的な判断は個別の実態によります。判断に迷う場合は、所轄の年金事務所・税務署、社会保険労務士・税理士への確認をおすすめします。
代表的なケースを見ていきましょう。
テレワーク中の従業員が業務命令で一時出社した際の交通費
在宅勤務者の出社交通費は、雇用契約や就業規則で定めた勤務地がどこかによって扱いが分かれます。
参照:テレワーク総合ポータルサイト『テレワークを導入した際の交通費や在宅勤務手当は社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含めるべきでしょうか?』
勤務地が自宅とされている場合
会社の業務命令で一時的にオフィスへ出社し、実費を会社が負担している場合は、出張と同じく旅費交通費(実費弁償)として扱えます。
勤務地がオフィスとされている場合
在宅勤務を認めているだけで本来の勤務地がオフィスであれば、出社は通常の通勤です。都度精算であっても通勤手当として扱います。
例えば、大阪在住で自宅を契約上の勤務地とする従業員が、月に数回東京本社の会議に出席する場合は、新幹線代が月15万円を超えても旅費交通費として全額にできる可能性があります。一方、勤務地が東京本社であれば通勤手当扱いとなり、15万円を超えた部分は課税対象です。
直行直帰した日の交通費
自宅から取引先へ直接向かう「直行」や、取引先から直接帰宅する「直帰」の交通費は、業務のための移動と考えられるため、一般的に旅費交通費として扱います。
実務上は、通勤定期の区間と重複する部分を差し引いて精算するルールを設ける会社も見られます。二重支給を防ぐためにも、旅費規程で精算方法を明確にしておくと安心です。
常駐先・複数拠点への移動
客先常駐の場合は、常駐の期間と実態が数日から数週間程度の一時的な派遣であれば旅費交通費として扱えますが、長期にわたり常態的に常駐先で勤務している場合は、常駐先が実質的な勤務地となり、自宅からの移動は通勤手当として扱うのが一般的です。
複数拠点を持つ従業員の場合、勤務時間中の拠点間移動(本社で会議後に支店へ移動するなど)は旅費交通費です。一方、「月・水はA拠点、火・木はB拠点」のように曜日ごとに勤務地が決まっているケースでは、それぞれへの移動は通勤にあたるため、通勤手当として扱います。
参照:国税庁『数か所に勤務する者に支給する通勤費』
研修・健康診断への参加にかかる交通費
業務命令で参加する社外研修や、普段と異なる会場で行われる社内研修への交通費は、業務のための移動として旅費交通費で処理します。
また、健康診断は労働安全衛生法で事業者に実施が義務付けられているため、会社が指定した医療機関で受診させる場合の交通費は、旅費交通費として扱うのが一般的です。受診場所が普段の勤務地と同じであれば、通常の通勤と変わらないため追加の精算は不要です。
まとめ:通勤手当と旅費交通費の判断基準を正しく理解しよう
会社が従業員に支給する交通費は大きく「通勤手当」と「旅費交通費」に分かれており、社会保険料や税務上の取り扱いが異なります。
通勤手当は自宅と勤務地の往復費用を指し、実質的な給与として社会保険料や雇用保険料の算定基礎に組み込まれるほか、非課税限度額の超過分は課税対象となります。一方で、出張などの業務遂行に伴う旅費交通費は実費弁償の性質を持ち、各保険料の算定外かつ原則非課税として処理されます。
また、テレワーク時の出社や直行直帰などのケースでは、労働契約上の勤務地と移動目的を基準に判断しなければなりません。実務担当者は「通勤手当」と「旅費交通費」の違いを正確に把握し、正しい処理を行うことが求められます。
しかし、実務では区分の判断だけでなく、日々の管理にも手間がかかります。「駅すぱあと 通勤費Web」を利用すれば、通勤手当を簡単に計算が可能です。通勤経路の申請・承認から、経路変更による払戻金額・運賃改定で生じた差額までを自動計算し、管理業務の手間を大幅に減らすことが可能です。
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