通勤手当は社会保険料の計算に含まれる? 適切な処理方法とは
従業員に支給する通勤手当は、社会保険料の計算に含まれるのでしょうか。
通勤手当が、社会保険料の計算に含まれるか否かで、支給する給与の額が変わります。社会保険料や税金の計算を担当される方は、適切な給与計算を行うために、通勤手当の正しい処理方法を把握しておかなければなりません。
そこで本記事では、社会保険料の計算における通勤手当の扱いとあわせて、通勤手当の課税の取り扱いについても解説します。
1.通勤手当は社会保険料の計算に含まれるのか
通勤手当は、社会保険料の計算に含まれます。
所得税の計算では一定額まで非課税になるため、社会保険料の計算に含まなくてもよいと勘違いされやすいのですが、実際は異なります。
社会保険の対象となる報酬は、労働の対価として受け取る、生活に必要な賃金や給与、手当などです。生計を立てるためには、仕事をして給与をもらわなければならず、その際、出退勤で発生する交通費は、生活するうえで必要な費用といえます。
そのため、通勤手当においても、社会保険料の計算に含むよう定められています。
2.通勤手当における社会保険料と所得税の取り扱いの違い
通勤手当は、社会保険料と所得税の計算において、どのように賦課されるかが異なります。以下で具体的に解説します。
社会保険料
社会保険料の計算には、通勤手当を全額含めなければなりません。
仕事に行くための通勤手当は、生活に必要な手当とみなされるため、社会保険料の計算の賦課対象となります。
社会保険料は、給与に通勤手当を含めてから算出しなければなりません。そのため、通勤手当の額によっては、同じ基本給の従業員同士でも、社会保険料の額が変わり、支給する給与の手取り額にも差異が生じます。
所得税
所得税の計算では、通勤手当に非課税限度額が設けられているため、限度額を超えない限り、課税対象になりません。ただし、限度額を超えた場合は、超えた額だけ給与に上乗せされます。
所得税法では、“通勤手当のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの”は、所得税を課さないと定められています。
なお、所得税の非課税限度額については、後ほど詳しく解説するので、ご参照ください。
引用元:『所得税法』第九条五
3.社会保険料の計算に必要な標準報酬月額とは
社会保険料の計算には、標準報酬月額を用います。標準報酬月額とは、毎月支給する給与や通勤手当などの合計の平均額を、等級別に区分したものです。
健康保険料は1〜50級に、厚生年金保険料は1〜32級に区分されます。
標準報酬月額は、給与や通勤手当などの合計額を、区分された等級に当てはめることで把握できる仕組みです。等級は、全国健康保険協会のホームページ、日本年金機構のホームページで確認できます。
なかには、標準報酬月額には含まれない報酬もあるため、それぞれの詳細を押さえておいてください。
標準報酬月額の対象になる報酬
標準報酬月額に含まれる報酬には、以下のようなものがあります。
▼標準報酬月額の対象になる報酬の例
- 基本給
- 通勤手当
- 残業手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 役職手当
- 年4回以上の賞与
残業手当も標準報酬月額に含まれるため、標準報酬月額を算出する期間に残業が多くなると、そのぶん社会保険料が上がってしまうおそれがあります。ちなみに、標準報酬月額は、主に4~6月の間に決まります。
なお、年4回未満の賞与は、標準報酬月額には含みません。
標準報酬月額の対象にならない報酬
次に、標準報酬月額の対象にならない報酬の例をご確認ください。
▼標準報酬月額の対象にならない報酬の例
- 見舞金
- 祝い金
- 出張旅費
- 労災保険の休業補償給付金
- 健康保険の傷病手当金
- 退職手当
- 年4回未満の賞与
見舞金や祝い金など、労働の対価として支給していない報酬は、標準報酬月額には含まれません。また、出張旅費は、不定期かつ一時的に発生する報酬のため、標準報酬月額の対象からは除外されます。
4.通勤手当は所得税において非課税の限度額がある
先述したとおり、通勤手当は、所得税の計算において、一定額までは非課税扱いになります。
通勤手当の非課税限度額は、交通手段によって異なるため、漏れなく把握しておいてください。
公共交通機関を利用する場合
電車やバスなどの、公共交通機関を利用する場合、所得税における通勤手当の非課税限度額は、月15万円までです。ただし、もっとも経済的かつ合理的な経路でなければ、非課税として認められません。
新幹線や特急列車を利用したとしても、もっとも経済的かつ合理的な経路であれば、非課税となります。ただし、グリーン車の場合は、経済的かつ合理的とは認められないため、対象外となります。
車・自転車を利用する場合
通勤に車・自転車を利用する場合は、片道の通勤距離によって、限度額が異なります。
▼車・自転車を利用する場合の非課税限度額
- 片道2km未満:全額課税
- 片道2km以上10km未満:4,200円
- 片道10km以上15km未満:7,100円
- 片道15km以上25km未満:12,900円
- 片道25km以上35km未満:18,700円
- 片道35km以上45km未満:24,400円
- 片道45km以上55km未満:28,000円
- 片道55km以上:31,600円
それぞれの区分で限度額を超えた額が、給与として上乗せされ、所得税の課税対象になります。
車・自転車と公共交通機関を併用する場合
駅やバス停までは車や自転車で移動し、途中から公共交通機関を利用する場合、通勤手当の非課税限度額は、それぞれの限度額の合計で算出します。車や自転車と、公共交通機関を併用する場合も、非課税として認められる条件は同様です。
なお、車・自転車と公共交通機関を併用する場合の非課税限度額は、公共交通機関を利用する場合と同様に、月15万円が上限です。
通勤手当の課税ルールや、非課税限度額については、こちらの記事もご参考ください。
5.まとめ
この記事では、社会保険料の計算における通勤手当の扱いと、通勤手当の課税の取り扱いについて解説しました。
- 通勤手当は社会保険料の計算に含まれるのか
- 通勤手当における社会保険料と所得税の取り扱いの違い
- 社会保険料の計算に必要な標準報酬月額とは
- 通勤手当は所得税において非課税の限度額がある
社会保険料を算出する際は、通勤手当も、基本給やほかの手当と同様に、標準報酬月額として計算に含めなければなりません。社会保険料における通勤手当を正しく処理するためには、標準報酬月額の概要も押さえておく必要があります。
通勤手当は、社会保険料の計算には全額含む必要がありますが、所得税の計算においては、一定額まで非課税になります。
それぞれの通勤手段による、非課税限度額の違いを押さえておけば、適切な課税額を算出できるはずです。
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