通勤手当は社会保険料の計算に含まれる? 適切な計算方法や所得税との違いを解説

従業員に支給する通勤手当を社会保険料の計算に含めるか否か悩んでいる担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。結論から言うと、通勤手当は社会保険料の計算の基礎となる報酬に含まれます。
一方で所得税の計算は、社会保険料の計算とは異なる性質があります。適切な給与計算を行うためには、通勤手当の正しい処理方法を把握しておかなければなりません。
本記事では、社会保険料の計算における通勤手当の扱いとあわせて、通勤手当の課税の取り扱いについて解説します。
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通勤手当における社会保険料と所得税の取り扱いの違い
通勤手当の取り扱いは、社会保険料と所得税で非課税分を「含めるか・含めないか」の判断基準が異なります。結論としては以下のようになります。
- 社会保険料:課税・非課税に関わらず全額を含めて計算をする
- 所得税:非課税限度額を含めないで計算をする
社会保険料を計算する際の基礎となる「報酬」を算出するには、通勤手当を「全額」含めて計算をします。そのため、同じ基本給の従業員でも、通勤手当の金額によっては社会保険料が変わる可能性があります。
一方、所得税法では「通勤手当のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの」は、所得税を課さない(非課税)と定められています。そのため、所得税の計算では通勤手当に非課税限度額が設けられており、その範囲内であれば収入に含めません。
参照元:e-Gov法令検索『所得税法 第九条五』
なぜ通勤手当が社会保険料の計算に含まれるのか
通勤手当が社会保険料の計算に含まれる理由は、社会保険料を計算する際の基礎となる「報酬」の定義にあります。
報酬の定義
のいずれかを満たすもの |
従業員が生活を営むためには、会社に出勤して働く必要があります。出勤にかかる交通費(通勤手当)は、業務を行うために不可欠な経費であると同時に、実質的に従業員の生活を支えるための資金の一部とみなされます。
つまり、通勤手当は単なる経費精算ではなく、労働者の生活保障的な意味合いを持つ「給与の一部」であると解釈されるため、社会保険料の計算に含められることになります。
参考:日本年金機構『厚生年金保険の保険料』
なぜ通勤手当は非課税なのか
所得税は、個人の「利益」に対して課せられる税金です。しかし、通勤手当は、従業員が自宅から会社へ移動するために支払った交通費を会社が補填する目的で支給されています。
そのため、通勤手当を受け取ったとしても従業員に新たな利益が生じるわけではなく「業務を行ううえで必要となる費用が精算されたもの」と位置づけられます。利益ではない金銭に税金をかけるのは不適切であるため、課税対象から除外されています。
ただし、無制限に非課税としてしまうと、給与を通勤手当という名目に変えて脱税するなどの不正が起きる可能性があります。そのため、最も経済的かつ合理的と認められる運賃等の金額を基準に「非課税限度額」が設けられています。この限度額を超えた分は給与(実費を超えた利益)とみなされ、課税対象となります。
なお、通勤手当の非課税限度額は以下のとおりです。
▼公共交通機関で通勤する場合の非課税限度額
期間 | 非課税限度額 |
1ヶ月当たりの通勤手当 | 150,000円 |
▼自家用車で通勤する場合の非課税限度額(2026年3月時点)
片道の通勤距離 | 非課税限度額 |
2㎞未満 | (全額課税) |
2㎞~10㎞未満 | 4,200円 |
10㎞~15㎞未満 | 7,300円 |
15㎞~25㎞未満 | 13,500円 |
25㎞~35㎞未満 | 19,700円 |
35㎞~45㎞未満 | 25,900円 |
45㎞~55㎞未満 | 32,300円 |
55㎞以上 | 38,700円 |
参照元:国税庁『通勤手当の非課税限度額の改正について』
通勤手当は社会保険料にどう影響する?
社会保険料は、毎月の給与額に料率をかけるのではなく、給与を一定の金額幅(等級)で区分した「標準報酬月額」という仮の金額を使って計算します。
標準報酬月額にかかる料率は、都道府県・健保組合・共済組合や年度によって改定されますが、等級は共通で以下のように設定されています。
- 健康保険(介護保険含む):第1級(5万8千円)~第50級(139万円)
- 厚生年金保険:第1級(8万8千円)~第32級(65万円)
従業員がどの等級に当てはまるかは、協会けんぽや日本年金機構が公開している「保険料額表」に報酬の総額(基本給+通勤手当など)を当てはめて確認します。
参照元:全国健康保険協会『都道府県毎の保険料額表』
参照元:日本年金機構『厚生年金保険料額表』
通勤手当の金額で等級が変わるケース
実際に通勤手当の金額によって等級と保険料がどのように変わるのかを例で見てみましょう。
例1)※東京都 40歳未満
- 基本給:285,000円
- 通勤手当:10,000円
- 合計支給額:295,000円
標準報酬月額:30万円(22等級) 社会保険料(本人負担分):約42,500円 |
例2)※東京都 40歳未満
- 基本給:285,000円
- 通勤手当:25,000円
- 合計支給額:310,000円
標準報酬月額:32万円(23等級) 社会保険料(本人負担分):約45,500円 |
このように、基本給が変わらなくても通勤手当の金額に違いがあれば標準報酬月額の等級が変わり、結果として毎月の社会保険料負担が増減する場合があります。
社会保険の扶養の収入基準に影響がある
パートやアルバイトの従業員が配偶者や親の「社会保険の扶養(被扶養者)」に入るためには、原則として年収を130万円未満(19歳以上23歳未満は150万円未満、60歳以上は180万円未満)に抑える必要があります。そして、社会保険の扶養認定基準である年収には、通勤手当も含まれます。
例えば、基本給10万円・通勤手当1万円で月収が11万円の場合、年収に換算すると132万円となり、年収130万円を超えているため社会保険の扶養には入れません。
一方で、所得税の扶養については通勤手当の非課税分は収入に入りません。例えば、基本給10万円・通勤手当1万円(全額非課税)で月収が11万円の場合、所得税では年収120万円として計算されます。
よくある質問
通勤手当の事務処理では、定期代の一括支給時の計算や旅費交通費との区別などで判断に迷うことがあります。ここでは、実務担当者の多くが抱える疑問についてお答えします。
特定の月に数ヶ月分の定期代を支給した場合はどうやって計算する?
6ヶ月定期代などを一括で特定の月(4月など)に支給した場合、社会保険料の計算(算定基礎届や月額変更届)では、支給された月に全額を計上するのではなく、対象期間の月数で割った「1ヶ月あたりの金額」を各月の報酬に含めて計算します。
例えば、4月の給与で6ヶ月分の定期代「6万円」を一括支給した場合、算定基礎届(定時決定)の計算では、6万円を6ヶ月で割った「1万円」を4月・5月・6月それぞれの報酬月額に加算して標準報酬月額を算出します。
また、月割りした際に端数が発生した場合は、支給月に端数を上乗せするのが原則です。例えば、5万円の6ヶ月の定期代が4月に支給された場合、支給月(4月)を8,335円、その他の月を8,333円として調整します。
業務にかかった交通費を支給した場合(旅費交通費)は社会保険料の計算に含まれる?
営業活動や出張など、業務のために一時的に従業員が立て替えた交通費(旅費交通費)は、社会保険料の計算には含まれません。
社会保険料の対象となる「報酬」は、労働の対価として支払われるものであり、従業員の生計を支える性質を持つものです。一方で、業務上の移動にかかった費用を会社が後から精算することは、あくまで「業務遂行に必要な経費の実費弁償」であり、従業員個人の利益とはみなされないため、社会保険料の計算には含まれません。
また、自宅から取引先へ直接向かう「直行」や、取引先から自宅へ直接帰る「直帰」のケースは、自宅を起点・終点とする移動ではありますが、業務のために不可欠な移動であることから通勤手当ではなく「旅費交通費」として扱われます。
つまり「自宅から会社へ通勤するための費用(通勤手当)」は報酬に含み、「業務のために移動する費用(旅費交通費)」は報酬から除外するものとして区別しておきましょう。
通勤手当は労働保険(雇用保険・労災保険)にも影響する?
労働保険料(雇用保険・労災保険)の算出基礎となる「賃金総額」には、「労働の対償として支払われるすべてのもの」が含まれます。そのため、社会保険料と同様に労働保険の計算には通勤手当の全額が含まれます。
そのため、毎月の給与から控除する雇用保険料も、通勤手当を含んだ総支給額に対して保険料率をかけて計算します。
まとめ:社会保険と所得税の違いを理解して適切に計算をしよう
通勤手当は社会保険料の計算の基となる「報酬」に含まれますが、「社会保険料」と「所得税」では通勤手当の解釈が異なるという点に注意が必要です。
- 社会保険料:通勤手当は「労働の対償(生活の糧)」とみなされるため、全額を計算に含める
- 所得税:通勤手当は「実費弁償(経費)」の性質が強いため、一定額までは非課税となり計算に含めない
社会保険料の計算では、通勤手当の金額が変わるだけで標準報酬月額の等級が変わる可能性があります。
また、社会保険の扶養基準である収入には通勤手当が含まれる一方で、所得税の収入には含まれないなど、扶養判定においても違いがあります。
しかし、従業員一人ひとりの通勤経路や運賃が変わるたびに、非課税限度額をチェックして社会保険料の等級への影響を確認するのは非常に煩雑でミスの起きやすい業務です。
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