通勤手当の精算方法とは?一般的な計算方法と実務上の注意点を解説

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通勤手当は、住所変更や退職などにより精算が発生する場合があります。とくに前払いで通勤手当を支払っている企業では、過払い分の精算が多く発生しているのではないでしょうか。

通勤手当は、所得税において非課税限度額が定められているため、精算する際にもその点に留意しておかなければなりません。


本記事では、公共交通機関と自動車通勤それぞれの一般的な精算方法や計算例、給与計算時の留意点を解説します。


目次[非表示]

  1. 1.通勤手当の精算とは
  2. 2.通勤手当の精算方法
    1. 2.1.定期代(公共交通機関)の計算例
    2. 2.2.ガソリン代(自動車)の計算例
  3. 3.給与計算における通勤手当の精算時の留意点
  4. 4.通勤手当の精算Q&A
    1. 4.1.Q:住所変更の申請を忘れていた従業員は何年遡って精算できますか?
    2. 4.2.Q:定期代を支給しているのに定期を買わずに通勤している従業員がいます。精算時はどのようにすればいいのでしょうか?
  5. 5.まとめ


通勤手当の精算とは

通勤手当とは、従業員が自宅から職場まで通勤する際にかかる交通費を企業が福利厚生の一環として支給する手当です。支給方法や精算のルールは企業によって異なり、多くの場合、就業規則や賃金規程に明記されています。


通勤手当の精算は、主に通勤手当を前払いしている企業で発生する処理です。従業員が引っ越しや転勤、退職などにより通勤経路が変わった場合は、過払い分などを給与で調整・精算する必要があります。


通勤手当は所得税や雇用保険料、社会保険料の算定に影響するため、企業側は正しく計算することが求められます。


通勤手当の精算方法

通勤手当の精算は一般的に従業員の住所変更や退職によって発生します。とくに住所変更の場合は、従業員が申請したタイミングによって遡って精算することもあるでしょう。


ここでは、一般的な通勤手当の精算方法を「定期代(公共交通機関)」と「ガソリン代(自動車)」の2つの計算例で紹介します。


定期代(公共交通機関)の計算例

定期代は、多くの企業で3ヶ月もしくは6ヶ月の定期代をまとめて給与で支払っています。

住所変更等で精算が発生した場合は、定期代の払戻額を給与で精算するのが一般的です。

定期代の精算には主に「払い戻し」か「区間変更」の2つのケースがあります。


払い戻し

払い戻しとは、現在の定期券を解約して残期間に応じた金額が払い戻されるものです。(完全解約の払い戻し)

基本的には、精算方法や手数料は運営する鉄道会社によって異なりますので、正確な金額が知りたい場合は直接担当窓口に問い合わせる必要があります。


以下は、JR東日本の払戻額の計算方法です。


払戻額 = 定期券発売額 - 使用済月数分の定期運賃 - 手数料220円
※使用済月数分の定期運賃で1ヶ月に満たない日の場合は1ヶ月として計算します


例)

 4月1日から9月30日まで有効の6ヶ月定期券を8月20日に払い戻す場合


 払戻額 = 6ヶ月定期運賃 -(3ヶ月定期運賃 + 1ヶ月定期運賃×2)- 手数料220円


このように、8月分を1ヶ月使用したものとして払い戻し金額が計算されます。

なお、手数料を従業員か企業のどちらが負担するかは就業規則等の規定によります。

参考:JR東日本「きっぷの払いもどし


区間変更

同じ鉄道会社で区間の異なる定期券に買い直す場合は、完全解約の払い戻しとは計算方法が異なります。一般的には、新しい区間の定期券を購入したうえで、旧区間の定期券代を差し引く形で精算が行われます。


払い戻しと同様、精算方法や手数料は運営する鉄道会社によって異なりますので、正確な金額を知りたい場合は直接担当窓口に問い合わせましょう。


以下は、JR東日本の計算方法です。


区間変更の払戻額 = 定期券発売額 -(使用した旬数 × 定期運賃の日割額 × 10)- 手数料220円


区間変更の精算は、発売額から変更日までに経過した旬数(10日を1旬とし、1旬に満たない日のは数は1旬とします)に定期運賃の日割額を10倍した額を乗じた額と手数料220円を差し引いた残額です。つまり「日割りして10日単位で精算」するという意味になります。


計算式に当てはめた額が古い区間の払戻金額となり、新しい区間の定期代から差し引くことになります。


実務上は、新しい区間の定期代から古い区間の完全解約の払戻額を差し引いた額を給与で精算する方法が用いられる場合があります。

参考:JR東日本「きっぷの払いもどし


ガソリン代(自動車)の計算例

自動車やバイクで通勤する場合はガソリン代を通勤手当として支給するのが一般的です。自動車通勤の場合は、企業によって計算方法が異なるため、ここでは一般的な計算式を紹介します。


一般的なガソリン代の計算式は以下のとおりです。


1kmあたりのガソリン単価 ÷ 燃費 × 片道距離 × 2(往復分)× 1ヶ月の平均所定労働日数


また国税庁によると、月の途中で通勤距離が変更になった場合は、非課税枠は通勤距離の「長い方」の非課税限度額を適用して差し支えないとされています。

参考:国税庁「交通用具を使用している者の通勤距離が変更となった場合の非課税限度額


精算方法も企業によって異なりますが、ここでは旧経路と新経路で日割りで計算する方法を2つ紹介します。

例1)

・9月10日に15km→10kmに変更

・ 1ヶ月の所定労働日数:21日

・ 燃費:1リットルあたり10km

・ ガソリン代:140円

・ 非課税限度額:12,900円 ※15km以上25km未満の非課税限度額


 140円(ガソリン代)÷10㎞(燃費)= 14円


 旧:14円 × 15km × 2(往復)× 10日 = 4,200円
 新:14円 × 10km × 2(往復)× 11日 = 3,080円


 4,200円 + 3,080円 = 7,280円(非課税


例2)

・9月16日に9km→5kmに変更

・1ヶ月平均の所定労働日数:21日

・燃費:1リットルあたり10km

・ガソリン代:180円

・非課税限度額:4,200円 ※2km以上10km未満の非課税限度額


 180円(ガソリン代)÷ 10㎞(燃費)=18円


 旧:18円 × 9km × 2(往復)× 15日 = 4,860円
 新:18円 × 5km × 2(往復)× 6日 = 1,080円


 4,860円 + 1,080円 = 5,940円(課税:1,740円、非課税:4,200円)


なお、従業員の申請が遅れて翌月に遡及して精算するケースでは以下のように計算します。


・9月に旧経路で全額支給

 18円 × 9km × 2(往復)× 21日=6,804円(課税:2,604円、非課税4,200円)


・本来の9月の金額

 旧:18円 × 9km × 2(往復)× 15日=4,860円
 新:18円 × 5km × 2(往復)× 6日=1,080円


 4,860円 + 1,080円 = 5,940円(課税:1,740円、非課税:4,200円)


・精算額
 5,940円(本来の9月の金額) − 6,804円(旧経路で全額支給した金額) = −864円(課税)


このように課税・非課税枠についても誤りがないよう注意しながら計算する必要があります。


給与計算における通勤手当の精算時の留意点

給与計算では各種手当をマイナス精算する際には、一般的に「マイナス支給」をして精算するのが一般的です。


これは、マイナス支給することで所得税や雇用保険に影響を与えるために行うものです。


しかし、通勤手当の場合は非課税で支給することが多いため、通勤手当をマイナス精算するときは、雇用保険のみの影響を与える形でマイナス支給しなければなりません。


たとえば基本給が「30万円」、通勤手当の精算額が「−1万円(非課税)」だった場合、所得税はあくまで課税対象額で算出されるため、非課税である1万円分は引かずに基本給30万円が所得税を算出する際に用いられます。


一方、雇用保険は非課税の通勤手当も対象となるため、29万円(30万円−1万円)に雇用保険料率をかけた金額が雇用保険料として控除されます。


マイナス精算だからという理由で控除項目で控除をしたり、課税所得額をマイナスしないよう注意が必要です。


通勤手当の精算Q&A

ここでは、通勤手当の精算でよくある質問をQ&A形式でお答えします。


Q:住所変更の申請を忘れていた従業員は何年遡って精算できますか?

通勤手当の請求時効は基本的に3年です。


ただし、企業によってはそれ以上の期間を遡って精算する場合もあります。


なお、通勤手当については社会保険料にも影響するため、遡って「定時決定」もしくは「随時改定」を行わなければならない可能性があります。

※参考:厚生労働省「未払賃金が請求できる期間などが延長されています


Q:定期代を支給しているのに定期を買わずに通勤している従業員がいます。精算時はどのようにすればいいのでしょうか?

就業規則や賃金規定で「定期代を支払う」「定期代の払戻額で精算する」と記載されているのであれば、企業が支給する通勤手当は定期代が上限です。


従業員が実態として実費で通勤していたとしても、就業規則などの規定に基づいて精算すれば問題ありません。


まとめ

通勤手当の精算は、従業員の住所変更や退職などの事情に応じて適切に対応する必要があります。


課税・非課税の判断や社会保険料への影響など、給与計算上の配慮も欠かせません。とくにマイナス精算を行う際には、所得税や雇用保険への反映方法に注意が必要です。


企業側は就業規則や賃金規程に沿って運用し、従業員とのトラブルを未然に防ぐ仕組みを整えましょう。


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